木曜日の早稲田のIntroduction to expressionというクラスの最終授業では少々ラディカルな手法を用いて応用演劇の手法を教えた。アウグスト・ボアールという二年前に亡くなったブラジルの応用演劇のパイオニアが考案した見えない演劇(invibible theatre)という手法をまずは学生に体験してもらった。これは普段演劇が起こりえることを予期できない普通の場所(地下鉄、路上、あるいはショッピングセンターなど)であらかじめおおよそのシナリオを携えて役者たちが一般市民の中に混じりながら劇を始めるのだ。ある社会問題を起こし、それをサクラの役者達が討論、デベートしつつ次第に一般人をその論争に巻き込んでゆき、問題意識を触発する。・・・・・ちょっとドッキリカメラに似た手法です。(但し、ドッキリカメラの方が新しいので恐らくこれの模倣かもしれませんね)。
朝、クラスの中のサクラの学生が藤倉先生(つまり私)が10分都合で送れるトの旨を教壇のホワイトボードに書きます。それで他のこれまたサクラ女子学生がなるべく多くの注目があつまりそうな席にすわり他の友人と話をしている。そこへこれまたサクラの男子学生がきて話をするのですが、この二人付き合っているという想定。そして男子学生は最近休日たびにメールの返信がなかったりする日々がつづくが他の誰かと浮気をしているのではないかと疑いをかけ、携帯履歴を見せるように迫る。そこで二人の周りの(やはりサクラ学生)を巻き込んで携帯を見せろ、いやプライバシーだ、いや、何も疑わしい事ないなら見せたら?との激しい討論を始める。このやりとりが始まると同時にクラス内の今一人のサクラ学生が教室の外に隠れている私に携帯電話をかけてくれ、その内容を携帯で聞いている・・・・ 大概典型的な日本人のリアクションは内心ドキッとしながらも他の事に専念しているように見せかけ耳だけダンボ状態になっている事が多いのだが(笑)
このクラスは初級という事もあり、一年と二年生が多かったせいもあり、やはりなかなか論争に加わるまでは行かなかったがかなりみなシリアスに信じ込んでいたようだった。ボアールは良くこの手法をパリの地下鉄の列車内などで行ったようだ。列車内で役者達が乗客内に紛れ込み、そして次の駅で役者が乗り込んできて、やはり乗客のふりをしている女優にセクハラを始める・・・・・このような少々危険な手法なのだが、時には予期しない反応やハプニングも起きる事がある(苦笑)。
上記の手法の他にも様々な応用演劇の手法をクラス内でデモンストレーションしながら行った。その一つがフォーラムシアター。ある問題をテーマとして日常的な台本に組み入れ、まずはその短い劇をデモする。一度デモンストレーションした後、再度同じ劇を見る。その時、観客は「ここをこうしてこの弱者の立場を変えればよいではないか」という場所でその劇をストップさせて、自らがその人物の役になり、そのアイディアをデモンストレーションするのだ。つまり行動で解決策を示す。だが周りの役者もそれに応じて反応するのでそれがどのような展開を見せるかわからない。上手くいくかもしれないが、あるいはまた言い込められてしまう可能性もある。つまり問題解決のドレスリハーサルのようなものなのだ。
やはり実際にこのような手法は見てみるのが一番頭に入るようだ。もともとこれらのボアールの手法は「被抑圧者達の演劇」と呼ばれ、社会的な弱者たちに自らの権利を主張することを自ら学んでもらうために考案されたものなのだが、今は様々な社会問題に一般市民がどう立ち向かうべきかを実際に討論ではなく身体でデモンストレーションする実践的人生のリハーサルとも言うべき方法論として欧米で静かなブームが起こりつつある。今この手法を実際に社会の問題に応用しようと日本でもいくつかのグループが奮闘している。どう展開してゆくかが楽しみだ。
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