アトランタの郊外に住む従妹の住いを訪れた。もう十年以上も前にアメリカに渡り、家族と共に南部のさまざまな州に移り住んだ後、ここアトランタに素敵な住居を構えている。まあ、アメリカ的に考えればこんな豪華な邸宅でさえも必ずしも「終の棲家」とは限らないのだろうが。アメリカに暫くいると、本当に日本の生活が如何に文化的に低いものなのかを改めて思い知らされる。おおよそ日本のマンション(とは言われているが、実際はアパート)の生活は人間としての尊厳を完全に無視した環境ではないか。そしてこのおおらかなアメリカの自然に包まれた邸宅の暮らしを見ると、何と人の一生とは限られた近視的な価値観と環境の中でしか育まれていないものなのだろうという事実を再確認させられる。同じ一生、限られた価値観の閉塞状態の中で生きるも、自らの価値観を信じて、その価値観が生かされる場所に身をゆだねて生きるも、まったくその人の意思しだいのような気がする。もちろん、ある程度の年齢に達したらその「越境する能力」は知らず知らずの内に限定されてゆくものなのだろうが。
今、教育はその根本を問われないとならないのではないだろうか?日本の親たちは今子供たちに何を与えようとしているのか。諺にもあるが、「飢えている人間に食べものを与えたら、その人間はしばしの間は飢えをしのぐ事ができる。しかし、その人間に魚の捕り方を教えてあげたならば、その人間は一生飢える事がなくなる。」と。子供たちがこの日本という単一価値観の支配する世の中で教えられている事といえば、社会生活とは直接縁が無い事ばかりだ。そしてこのような教育を受けても、この弱肉強食の社会機構の餌食になるか、もしくは逆に弱いものを平然と冷酷に搾取しながら私服をこやす人間にしかなれない。なぜならば学校が何を教えようが、今の子供の模範は、今現在社会に生きている大人そのものだからだ。その日その日を拝金主義の権化になりながらすごす大人を見ながら、そこから抜け出そうと言う勇気を持てる人間はほんの僅かだろう。そして彼らがそのまま行けばそんな社会の餌食になるのは目に見えている。だからこそ、一旦この狭い日本という価値観の中でそんな子供、青少年達が自ら置かれた閉塞状況に気付いたとき、起こせる行動は切れるか、暴発するかしかないのではないだろうか?勝ち組負け組み、そんな陳腐な言葉をマスコミは安易に連発しながら、一方ではその勝ち組をわけのわからない「セレブ」(こんな意味で使われる英語ではないのだ!)などとはやし立て、かたや負け組みの悲惨な状況を逆手にとってサディスティックな番組の特集を作る。ではその勝ち組と称される人間達の質は如何に?と問われたら「恥知らずなスキャンダルに身を包みながら、低俗なしゃべりと陳腐な話題でノンベンダラリと身内話に公共電波の時間を費やす芸の無い芸能人と自称する輩達か、社会の為にと標榜しながら、実際はあらゆる偽善的な行為に身を費やしている似非政治家と似非事業家ではなかろうか。そんな社会がいやになった子供たちは、どんどん日本をまずは捨てるといいのだと思う。若者はいやになったら、一旦この狭い田舎社会の価値観の世界から飛び出して、そして改めて外からこの社会を見つめなおし、やがてはこの国を良くする人材になってほしい。あるいはそんな大きな事できなくとも、少なくとも自分のまだ発見されていない可能性、特性を一旦外に飛び出して見つめなおせるチャンスを自分に与えてみてもらいたい。もちろん何もアメリカや西欧諸国とは限らない。世界はまだまだ人間の多様な生き方を認めてくれる場所は沢山あるはずだ。そんな選択肢を勝ち取る情報を与えるのが今の教育の最優先課題だと思っている。やがては外に出る事によって日本の素晴らしさを再確認できるチャンスは必ずやってくる。なぜなら自分がそうだったから。外の世界をどんどん開拓して、自分の一番適した世界を国境を越えて探せるたくましさを教えるべきなのだと思う。白い犬の話がある。白い犬に生まれると死後人間に生まれ変われるという言い伝えがあった。ある日、普通の犬が白い犬にこう言う「いいな、君は次の生では人間になれるんだね」、するとその白い犬が言う、「いや、今とても不安があるんだよ。だって人間になったら、もうあんなに美味しい人間の便が食べられなくなるじゃないか!僕は今悲しくて仕方ないんだよ。」・・・その世界の価値観からしか考えられない事と、その価値観を飛べ出たところでしかわからない価値観と・・・・それはたとえて言えば別の生を与えられるような大きなパラダイムシフトなのだ。そしてこんな逞しさを今の子供たちに与えてあげたら、いつか彼らのうちの大勢がこの閉塞状況を打破してくれるはずだ。そんな事をここの数日間ずっと考えさせられた。
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