16、17日と中央区の内田洋行ビル内、東京ユビキタス協創広場で行われた教育工学会合宿が終了した。久しぶりにお会いする方々、そして初めて出会う人々、学生さんから、大学教授、そして企業コーチングに携わる方々、などなど様々な業種から総計約50人がタイトなスケジュールの中で身体と教育、そして舞台と教育の関連性を模索し続けた。今回のテーマは「身体という“メディア”,学習装置としての“舞台”即興劇・マイムを体験しつつ,学習理論を探究する」というもの。みなさん、自らのなかなか思うように動かない身体と一生懸命対話してくださり、そしてみなさん各自様々な混乱、疑問と格闘しながら二日間を突っ走りました。
今回はファシリテーターとしての参加だったのですが、自分自身、心の中でいろいろな疑問符を抱きながらの二日間だった。ワークショップというものの意義を改めて問い続けた二日間。
特に最後に東大の中原先生が、従来の予定調和的な教育とインプロ、マイムを比較され、西洋医学と東洋医学の違いを比喩として使われていたのが印象的であった。この比喩は勿論既に幾度も聞いたことがある、データ、数値を分析し、異常値、あるいは主訴を現時点で最も有効的な手段で除去しようとする対処療法に依存しがちな西洋医学。しかし、その対処療法には必ず、その裏で副作用などの負の側面がある。それに対して、東洋医学の根源的な原因追求(体の歪み、あるいは生活習慣などから起こる冷えなどの病の根本原因を除去し、人間の本来もっている自然治癒力を高める)、そしてその為の施療時に於ける診断即治療(コリや歪み、あるいは冷えなどに応じてその対応を随時決めてゆく)という、ある意味、即興的な施療法が主になる。
実は、自分自身90年代初頭に東洋医学を修め、指圧、マッサージ師の国家免許を取得し、あるいはインドのヨーガの大学(カイヴァリア・ダーマン)でヨーガ指導者としての研修をうけている身であるために、この違いは十分に心得ているつもりだ。しかし、だからこそ、今回のワークショップでの疑問がさらに現実味を帯びてきたのも事実だ。世間一般の施療実践中の東洋医学の実践者を見て常日頃思うことがある。そこにはデータでなく施療中の経験的直感(勘)に頼らざるを得ない場合が多々ある。しかし、これが諸刃の刃でもあるのだ。
データを主に扱う西洋医学にはその資格取得にはかなり具体性のあるデータ分析、解釈、そして対処のアセスメント(国家試験)が課せられ、資格取得も容易ではない。そしてその後長い臨床研修が待ち受けている。しかし、ひるがえって東洋医学の資格はそれほどデータ的な数値、あるいは臨床的なデータ解釈(応用)を国家資格では問われないことから、ややもすると自己満足の直感本位の施療師がまかり通っているのも否めない現実のような気がするのです。より具体的な言い方をすると、どこどこのツボに鍼をうまく打てるか、あるいはどこどこの筋肉の起始部位を揉みほぐす事ができるか、といったある意味、表面的な技術習得の試験で終わってしまっている。そして法定で定められた研修期間もない。実は学んだ技術をより有効にするには、その後の実践的臨床経験による、勘の修練が必要なのですが、これはもともと教授困難な事。自らの修練、経験によって、あるいは様々な条件によって施療を微妙に変化、適応させて行くほかないのです。だが、巷の多くの施療師はえてして表面的な技法習得でストップしてしまっている場合が非常に多く見受けられるのが正直なところ。
さて、それではワークショップ、あるいはインプロ、マイムといったものはどうでしょうか?おそらく今回多くの方々はどんな具体的な指導法があるのか、あるいはどのような学びの方法論があるのかを模索しいらした方が多いと思われます。しかし、今回行われたものは大きなインプロ、あるいはマイムという世界のほんの一面。そしてその表面的にデモされた技術、あるいは技法のを使用、応用するためにはその場の文化的、あるいは時間的などなどの諸条件に即したアジャストメント(修正、調整)ができる臨床経験が必要になります。単にこれらを持ち帰って、さあ、どのように使おうか?というのはナンセンスな話。そこでワークショップ、あるいはインプロ、マイムの指導者の資格とはなんなのかという問いを抱いたのも正直な所でした。この技術伝授は果たして可能なのかどうか?あるいはそうだとしたら、一体技術習得後どのくらいの臨床研修(とでもいいましょうか)が必要なのか・・・
実際にワークショップの中でも、ある参加者の方に、教育演劇などが(ダンスや武術がカリキュラムに取り入れられたように)何故未だにカリキュラムに入れられないと思うかという質問がなされました。おそらくこういった指導者育成の問題も大きく関わっているのだと思われます。インプロ、マイム、教育演劇などといった指導は、それこそ長い長い経験に基づいて、様々な引き出しを用意し、その場の状況、条件などによって即時対処、修正し続けられる力が問われます。上記の東洋医学の現状を考える時、自己満足のヤマカンで突っ走るワークショップリーダーにはならないように、自戒を新たに更に研修を重ねて経験を構築してゆかねばならないと思いました。
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