前回掲載した中部大学教授の武田邦彦氏による原発に関するブログに関し、私なりの判断をする為に信頼できる客観的な意見が欲しかった。そこで私が心から信頼する友人であり、某有名大学の工学博士であるT君に意見をお願いしました。以下T君の了承を得て彼なりの感想、意見を掲載させていただきました。T君本当にありがとう。感謝します。
蛇足ながら彼は「自分のはあくまで楽観的な見方だと思います」と付け加えていました。以下皆さんが皆さんご自分で判断されるときのご参考にしていただいたら幸いです。(以下T君よりの返信)
当該サイトにおける3/12以降の記事を読みました。
おそらく、武田先生は僕よりも原子力に関する知識があり、日本の原子力政策にも深く関わっておられる方かと思います。一方で、その著作(タイトルのみ)や主張、評価(インターネットで知り得る範囲での評価)を見ると、定説と異なる独自の主張を持っておられるようです。
僕から見て、武田先生は少し警戒心の強い方かと思います。一方で、僕自身は少し警戒心が弱く、楽観的な考え方をする傾向があると思います。それを踏まえて以下をご参照頂きたいです。
3/17日に記載のあった武田先生の主張について、以下の3つの点に関して僕の見解を記します。
1.政府とマスコミによる単位のごまかし
→ 武田先生に不同意
● 理由: 日立から避難して以来、NHKのみを視聴していますが、そのような変化はないと僕は考えています。アナウンサーによって「1時間当たり」ということを述べない人や場合がありましたが、定常的に出演しているNHK科学解説員の山崎氏においてはそのような意図的な変化はないと思います。民放についてはわかりません。
2.単位の違い(Sv と Sv/hr)
→ 武田先生に同意
● 理由: Sv(シーベルト)を線量(被ばく線量)、Sv/hr(シーベルト毎時)を線量率といいます。線量率に時間を掛けると線量になります(正確には、線量率の時間積分が線量)。両者をきちんと区別する必要があります。
3.被ばく線量の見積もり
→ 武田先生に不同意
● 理由: 以下の3点(A~C)から、武田先生の仮定や参照値が不適切と思われます。
A. 線量率: 3/14-3/15の平均値、最大値、最小値を用いたと考えられますが、当該期間には2号機の水素爆発(原子炉格納容器損傷)、4号機水素爆発(使用済み燃料が大気開放)が発生しています。つまり、瞬間的に数値が高くなった部分を含んでいます。17日現在の放射線量率は以下の通りです。カッコ内が武田先生の用いた値です。
・福島市:7.5 (20) μSv/hr
・東京都:0.05 (0.1~1) uSv/hr
B. 安全係数: 赤ちゃんや妊婦に対する安全係数(10倍)・・・幼児や妊婦への影響が“大きい”ことはわかっておりますが、その定量的な違いが10倍という根拠は僕の知る限りありません。定量的な評価値がないのに10倍ぐらいみておけばよいという根拠がわかりません。数倍かもしれないし、数十倍かもしれません。
C. 状況悪化: 容器が破裂した場合の影響(10倍)・・・2号機、3号機はすでに格納容器に損傷の疑いがあります。つまり、核燃料と大気との間に流体の障壁はありません。また、4号機も建屋が損傷しており、使用済み核燃料と大気との間に障壁がありません。現在、放射性物質の漏洩は気体の放射性物質(主にヨウ素、キセノン、クリプトン)が大部分だと思いますので、すでにこれらの気体は容易に漏洩し得る状況にあります。よって、容器が破裂した場合の影響(10倍)という仮定は不適切かと思います。
よって、全体的に見て武田先生の主張は悲観的であり、全面的には同意できません。
しかしながら、現状は楽観視できる状況ではないと思います。以下の3点が確立されない限り、福島県内および隣接県の人は長期的に見た避難を考えるべきと考えます。
① 1~6号機の核燃料を定常的に冷却できる
② 核燃料大気とが物理的な障壁により隔離される
③ 居住地域の放射線量率が一定値以下である
上記が確立されない限り、常に放射線による被ばくを受けることになり、現状では年間(8760時間)で以下に示す程度の被ばくが予想されます。幼児や妊婦は放射線の影響を受けやすいので、実効的には下記よりも大きな影響を受けることになります。
・東京都:0.05 μSv/hr × 8760 hr = 0.44 mSv
・茨城県:0.2 μSv/hr × 8760 hr = 1.8 mSv
・福島市:7.5 μSv/hr × 8760 hr = 6.7 mSv
僕個人としては、現状はまだ様子見段階かと思っています。しかしながら、福島第一原子力発電所から遠ければ遠いほど安全であることは明らかであるため、時間的および金銭的に余裕があり、定常的な滞在場所(親戚等の家)があるのであれば、そちらへ退避した方が安全かつ安心だと思います。
また、個人的な関心事は以下の3点です。
(1) 1~3号機の圧力容器内の燃料の状況(冷却状況、露出状況、損傷状況)
現状、1号機で7割、2号機で3割の燃料が損傷しているらしいです。被覆管が急冷却により割れたのか、過熱により溶融しているのか・・・。
(2) 復旧作業場所の線量率(作業の可否)
現状、正門付近でも200-300 μSv/hr の線量率があるため、原子炉付近では数十 mSv/hr の線量率が予想されます。一人1時間程度の作業が限界かと・・・。
(3) 放射性物質の移動予測(大気中の拡散シミュレーション)
現状、出展が明らかで信頼性のあるデータがありません。武田先生もご指摘の通り、風向きが重要です。資料を見る限り、発電所の北西方向の線量率が高いようですが・・・。
長くなってしまい申し訳ありません。もっと簡易かつ詳細に説明できる/すべき/したいと思うのですが、差し当たりこのようにお伝え致します。
もし、その他にご質問やご意見があれば、いつでもご連絡下さい。なお、参考とした資料を添付します。全て文部科学省および東京電力が公開したものです。
・東京電力 – プレスリリース
<http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/press_f1/2010/2010-j.html
・文部科学省 – 放射線モニタリング
<http://www.mext.go.jp/
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