今年は結構元旦から用事が詰まっている割には、ちょっとした時間を有効に使って映画を楽しんでいる。ほとんど夜が多いのだが、エヴァンゲリオンから始まり、レミゼ、そしてもうひとりのシェイクスピアと続いている。レミゼは12年前にブロードウェイの舞台で見て以来だが、やはり今回も館内で大泣きしてしまった。役者が非常に良かった。そして歌も舞台とは違った味わいがあった。やはり映画としてのミュージカルはそれなりに舞台とは違った強さ、あるいは弱点もあり、それをうまく使いこなし、使い分けていたと思う。特にいわゆる「掴み」になる最初の船を引く囚人のシーンはものすごい効果だったと思う。アン・ハタウェイのI dreamed a dream (夢やぶれて)も舞台以上の迫力と現実の悲惨さがヒシヒシと感じられた。そして今回は特に12年前と自分が大きくちがったのが、子供を持ったこと。そしてそれがエポニーヌへの涙を非常に誘ったのが印象的だった。教育と育つ環境。こんな事が頭を駆け巡り、彼女に対する涙がこみ上げた。やはり観る側の条件、状況により舞台の印象がかなりちがってくるのは事実だとつくづく思う。
今日は「もうひとりのシェイクスピア」を見た。昨年、Bill Bryson著の ”Shakespeare The World as Stage”( 邦訳題;「シェイクスピアについて僕らが知り得たすべてのこと」)という本を読んだ際、いかに僕らがシェイクスピアに関する乏しい資料しか持ち合わせていないかを改めて思い知らされたので、この映画は説得力があった。この映画は日本人には非常に難解かもしれないと思うと同時に、僕の演劇史の授業をとっている学生たちには是非見て欲しいと思う映画だった。当時の風景、人物が非常にビビッドに視覚化されているし、あとで解説を加えると非常に納得のいく基礎になる情報が満載なのだ。もともと映画の主題である、シェークスピアは別人という説においても、複数の作者がいたという説もあるし、一時は生まれ年が同じ、クリストファー・マーロウではなかったかという説もあったという。マーロウは(映画にも垣間見られた如く)飲み屋において喧嘩の末、刺殺されたのだが、実は彼は地下で生き続け、そしてシェークスピアの名前を借りて戯曲の創作をつづけたという事を唱える学者が過去にはいたらしい。(ちなみに映画の中では、オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアという設定になっており、この説もかなり有力視されたことがあるらしい)。
グローブ座とその周辺に散在したbear batingといわれる、いわゆる「熊いじめ」。何日も空腹にされた熊が鎖につながれ、それをやはり空腹状態にされた猟犬にさらして、この戦いの勝敗を賭けのゲームにしていたらしい競技。これも日本人にとっては馴染みが無いものなので非常にありがたい。それから当時のロンドン橋の不衛生状態。ここからペストなどが拡散したらしいのだ。そして最後にエリザベスの死後王位につくジェームズ一世が鑑賞する舞台、これが既にエリザベス朝の質素な演劇とは趣きを事とする、イタリアのネオクラシシズムに影響を受けている豪華なセットの舞台になっているのだが、これも実に正確に表現されていた。演劇を教えたり、学ぶものとしてはおいしい教材がたくさん散らばっていた!!とにもかくにもシェークスピアがハイカルチャー(高尚な文学)のアイコン(象徴)としていつの日か崇められるようになったのだが、史実は民衆の見世物だったという点、そしてそれは作者が誰だったかに関わらず、その遺産となるものが現存する戯曲そのものであるという貴重な事を再確認させられた。
思い起こせば、自分の人生の転換期であった1999年に見たトム・ストッパードの「恋に落ちたシェークスピア」に触発されて、もう一度演劇を学問的に追求してみようと再渡米を決意。そしてあれから14年後、この映画をみてまたまた何か自分の中の演劇に対する熱い思いがこみ上げてきたような気がする。今年の夏は遅ればせながら生まれて初めてシェークスピアの故郷、ストラットフォード・アポン・エイボンを訪れる予定だ。
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