朝、友人からメールをもらった。陸前高田の御友人とそのご家族がようやく48日ぶりにご遺体で確認され、荼毘にふされるという知らせだった。10キロも離れたところで発見され、DNA検査もその数の多さで順番が来ず状態で、決め手は御主人とその方のおそろいの腹巻であったという。それぞれ瓦礫の下、森の中で泥まみれの状態で発見されたと・・・何とも表現のできない無常観に襲われた。悲しいという言葉を通り越して、本当に切なくて仕方ない。心が一日中痛み続けた。 私たちがテレビ画像などで見る津波の爪痕は、すでに瓦礫だけの風景としての「乾いた」映像でしかない。しかし、その裏で現実にはどれくらいの悲惨な生々しい光景が展開しているかを想像しなくてはならない。そしてそれらに直面している人々の心をも。テレビ画面とはこうした固定された一面しか伝えられないのが限界だ。私達は想像しなくてはいけない。
思えば、たまたま私たちは今まで平穏な「瞬間」を「生かされていた」に過ぎない。平和ボケとは恐ろしい病だったかもしれない。長い歴史の中で、どれだけ人類はこうした自然の猛威の前に為す術も無く、肉親をはぎ取られ、愛する者を奪われ、声にならない悲鳴を上げ、そして枯れても止まない涙を流してきた事だろうか。
友人からのメールを読みながら昔読んだ方丈記の一節が脳裏をよぎった。養和前後の飢饉に続く疫病により、京の都は死者が後を絶たず、河原は馬や馬車がすれ違う事も出来ないほどの遺体の山だったという記述がある。その時、仁和寺の隆暁という僧侶が仲間と一緒に、遺体の額に「阿」の字を書いて大日如来にすがれるようにと供養して歩いたが、その数はなんと4万2300余りだったという。そしてこれは京都の街のほんの一部であるからして、これをどれだけ上回る数の遺体が散乱し、そして異臭を放っていた事だろうか。まさに地獄絵だ。
私達はこういった事を文字により学校で学ぶ。そして映像でその一部を垣間見る事もできる。確かにこの記述はあまりに凄かったので幼かった自分の脳裏に焼き付いてはいたが、所詮は過去の事として、自分の何処でいつの間にか無難に処理していたような気がする。だが、今これが現実なのだ。この地獄絵が現実の世界として目の前に展開している。確かに教科書には机上の学びはあった。そして今も映像でその一旦は垣間見られる。しかし、学びとは想像力と行動だ。私達はこれらの教材から想像力を駆使して学ばねばならない。これが本当の学びになるためには何をしたらよいのか、再び平和ボケに陥らない為にはどうしたらいいのか。私達はこの数多く亡くなった人々の魂を供養する為に何を実際に行動し、子ども達に何を伝てゆかねばならないのか。今、単に「立ちあがって」「元気を出す」という標語が飛び交っている。元気は確かに必要だ。だが、それと同時に、時には立ち止まって、真剣にこの学びというテーマを考えてゆかねばならないのではないか。一体私達は、このような文字、映像をたよりに何を学ぼうとしているのか、何のために見るのか。それによってどう変わるべきなのか。そしてその時必要な想像力をどのように育んで行ったらよいのか。今、心の中でひたすら祈りながら自問している自分がいる。
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