久々に映画を二日で二本続けて観た。昨日の演芸場出演後は「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男」=第二次世界大戦終盤のサイパン玉砕後も山中に潜んで徹底抗戦した大場栄大尉率いる残存兵の混合部隊47人の話。そして今日の午前中、演芸場の出番前には「ソーシャル・ネットワーク」=ハーバード大学在学中に現在のfacebookの前身であるThefacebookを作り上げ、最年少にしてビリオネア(億万長者)になった男、マーク・ザッカーバーグの話だ。
「太平洋~」は腑に落ちない場面も多々あったのも確かだ。特に『17歳の硫黄島』を読んだ直後だったので、やはり映画のイメージは綺麗すぎると思ったし、山中の兵隊や一般人が体験した飢えや乾きはあの程度ではなかったろう。被爆時や撃ち合いになった時の光景はただ単に(映画のように五体が完璧な)死体の山になるだけではなく、常に目の前に山となって散乱するものはバラバラ粉々になった人間のちぎれた部位だったという。その他常に付きまとう遺体の腐敗臭、うめき声、鳴き声など、所詮映画では戦争の真の悲惨さは表現できないのかも。
ただ、そんな中でも凄いと思ったのはやはり大場大尉の集団統率力だ。『硫黄島』の著者、秋草さんの話では、戦争終盤に一番怖かったのは敵のアメリカ兵ではなく、同胞だったという。残存の混成グループが飢えに苦しみ、底をつき始めた水と食料を前にした時の武器をもった仲間だったという。傷に呻く兵士はうるさい!と同胞に撃たれたりもしたという。つまり各部隊が司令官を失って統率力が無くなった時に垣間見たカオスであり、修羅の世界だったという。その点、最後までグループを統率できた大場大尉は凄いと思った。
その他、納得の行かない事やムカついた中島朋子の稚拙な演技などまだまだあるが次の機会に是非。
「ソシアル~」については、まずは暫らく懐かしいハーバード大のキャンパスに心躍った。(すでにご存知の方も多いとは思うが)自分はウィスコンシン大学だったのだが、妻がここで3年間講師をしており、自分もアメリカの最後の年この地に住居を移した。博士論文をこの大学の図書館内で書きながらチャールス川沿いにハーバード大学のボート部の学生の訓練を見ながら毎日10kmのランニングをしていた。
どちらも鑑賞後痛切に感じるのは日本人の思考停止的で固定的な観念に対して対象的なアメリカ人の破天荒ではあるが柔軟で独立性のある思考力だ。勿論この二本の映画を直接比較しているわけではない。例えば太平洋戦争中に相手の言語を「敵国語」として単に蔑んで敬遠したり後方支援を一切せずに食料などを現地調達させる無謀さ。根性、大和魂という逃避的な合言葉の前に思考停止状態、やがては神風が吹くと信じるその無謀さ。そしてそれに対して、情報収集に力を注ぎ相手を徹底的に分析する米国。アメリカは貪欲に敵国日本人を分析した。文化人類学者、ルース・ベネディクトなどはその典型で、日本を訪れた事もない彼女は文献と知日派や日系人との交流により徹底的に日本文化とその価値観、行動様式を分析した。その結果は後に『菊と刀』となって出版される。戦後マッカーサーなどはこの文化論により天皇制の維持の必要性を説いたともいう。
ハーバード大学の校風にしてもそうだ。ビル・ゲイツにしてもマーク・ザッカーバーグにしても彼らの自由な発想を育む土壌があるような気がする。以前にもマイケル・サンデル教授の弁証法的な授業アプローチを語る際にも書いたのだが、やはり学問に対する取り組み方の姿勢の違いがあるように思われる。理想的模範解答を無思考のまま暗記し試験に吐きだすための授業なのか、それとも自分の思考能力を磨くための過程としての学問なのかの違いが如実にその結果として表れる。
こういった例は何も大学ばかりでなく、日常の身近な場面で頻繁に出くわす。下世話な話ではあるが、レストランでメニューに提示されていない組み合わせやら、臨機応変的な対応をリクエストすると必ず個人的な判断で対応してくれるのがアメリカの場合。教え込まれた心伴わない口先のご丁寧なご挨拶はされるが、所詮マニュアルにしかない対応しかできずに自分の頭で判断が出来ないのが日本の場合だ。(お断りするが今までにそんなに理不尽なリクエストをした事はない)。前阿久根市市長の竹原信一氏が嘆いていたが、氏が市役所の窓口に住民票を取りに行くと本人と知りつつ証明書の提示を求められるという。まさに「自分の頭で考えろよ!!」と言いたい。こんな比較を頭に巡らしながら久々の映画を楽しんだ。
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久々の映画です への1件のコメント