暫らく論文の校正を続けて煮詰まっているが、その合間に気晴らしにと思って読んだ本にかなり考えさせられてしまった。堤未果さんの岩波新書「ルポ・貧困大国アメリカII]だ。堤さんとは一度都内のとあるパーティーで私のマイムの司会をして頂いた時にお会いした事があるのだが、本当に優れたルポタージュを書かれる方だ。前回の「貧困大国~」においてもイラク戦争における正規米軍以外の所謂派遣社員としての傭兵がどのようなシステムから作られて、そしていかに筆舌に尽くしがたい惨状に落としいれられているのかを非常にわかりやすく解説してくれている。例えば、普通の一般市民が普通に生活しているある日、幼い子どもが病気になる、保険が払えず、莫大な医療費が払えない。父親は必死に我が子を救うべく割の良い仕事を探す。そこに手を差し伸べてくるのが傭兵の仕事。つまり種明かしすれば政府の要人のディック・チェイニ—などがトップで経営し、間接的に政府から依頼されている諸々のお抱え会社が養成し、派遣する傭兵派遣の団体。これらの派遣社員は十分な補償もないが給料は割合良い(もっとも通常のブルーカラー職に比較すればという意味合いで)。ただし、これらの人々が送られるのが戦場で一番潜在的危険が大きな部署なのだ。放射性物質の運搬からその管理などなど。帰国後これらの傭兵参加の人々の多くが発癌しているのだが、保障もなにもない。実は現代の戦争はこのような傭兵で成り立っているという。驚きだった。むろん大儲けしているのは戦争を仕掛けている政治家たちが経営するこれらの派遣会社だ。戦争ビジネスの一つの形なのだ。
今回のルポIIで驚いたのは刑務所ビジネスだった。今まで資本主義の中で常套手段として使われていたのは格安労働力としての第三諸国の人間だった。たとえば現在日本においても私たちがコンピュータのトラブルやその他の案件で問い合わせの電話をかけると、最近は必ず中国人のオペレーターがでるのにお気づきだろうか?先日無知な私がその事を友人に何気なく言うと、その彼は笑いながら、最近はコールセンター自体が中国の大連などにあって日本からの電話は知らないうちにそちらに転送されているという事実を教えてくれた!!つまり電話代こそ会社が負担しているが、人件費からいうとその方が格段に安くあがるのだそうだ。
だが、だがなのだ・・・その上をいくビジネスがすでにあったのだ。今、アメリカの刑務所内の囚人たちが働く時給をご存じだろうか?試しに読書後に4人ほどのアメリカ人とスカイプで会話した際にこの質問をぶつけてみたが、アメリカ人すら皆知らなかった。なんと時給15セント(約15円)なのだ!!そしてさらに驚くのが彼らは自分が刑務所内で使用するトイレットペーパーから歯ブラシまで自分で買わねばならないのだが、それらの物品の額が市販のものよりも3倍ほどの値段らしい。(つまり業者は割り引かなくても囚人は発言権がないので業者の言い値で売ることができるのだ)。ちなみに歯ブラシ一本が6ドルという(通常は2ドルくらい)。したがって何年か後に出所する時点では彼らは物凄い借金まみれになっているという。だが出所しても前科と借金まみれでは仕事があるわけがない。刑務所の方がよっぽど住み心地がよい。実に悪循環だ。
さてさて、話がそれたが、つまりこれらの囚人たちに様々な仕事を依頼する企業が急激に増加しているというのだ。彼らには労働条件などの交渉権もなく、福利厚生もない。それでいてこのような格安条件で必死に働いてくれる。企業にとっては願ったりかなったりなのだ。たとえばこの例の一つがアメリカの大手通信会社のエクセル・コミュニケーションで、この会社の番号案内のほぼすべてがテキサス州のフォートワ—ス刑務所の女性因オペレーターによってなされているらしい。彼らにとっては他の劣悪条件より、この交換手の仕事の方がまだ好条件(といっても比較であるが)であるらしい。ちなみに昇給もあるらしいのだが、最高時給に達するまでに7年以上もかかり、そしてその到達した最高時給がなんと1ドル45セント(145円)だという。もちろん福利厚生も一切ない!!だが、これは囚人仲間では最高の仕事であり、他の囚人がこのポストを狙っているのでいい加減な仕事はできないのだという。他にも様々な企業がこのような仕組みを利用する為に刑務所に散々の献金をしたりして取り入っているらしい。これって言いかえれば現代の奴隷制度ではないか!!奴隷制度が正当化されて存在しているのだ!自由主義の名のもとに。
これはほんの氷山の一角で、自由主義のもとでは利益を上げるためにこのような実に許しがたい、信じられない手段が平気で日常茶飯事に横行しているらしい。しかしこれは海の向こうの他人の国の出来事として高見の見物というわけにはいかないだろう。すでにこのシステムは日本にも根づいてしまっている以上、これがエスカレートして上記のような事が日常化するのは火を見るより明らかだ。秋葉原殺傷事件は絶対に許されない事だが、実際にあの犯人のような非正規社員、派遣社員として低賃金で奴隷的過酷労働を強いられて劣悪な生活環境にいる人々がどれほどいるのか、そしてその上で繁栄を謳歌している企業がどれほどあるのか。・・・昔はこんなこと言ったら「あいつは赤だ!」とか言われたのだろうが・・・冷静に考えればすべての人々が完璧に平等なんてことはもちろんあり得ないし、そんなことは夢物語だ。しかし行き過ぎた自由主義をアメリカに見出して早く日本も軌道を修正しなくてはいけないのじゃないかな?などと論文とは関係ない事を考えたりしている今日この頃でした。ああ、日本語はなんでこんなに簡単に書けるのだろうか(爆) 明日が論文校正締め切りだぜ!!(汗)
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