ノースカロライナにて

ノースカロライナ州Etowa にニューヨーク時代の恩師を訪ねた。その昔自分がまったく西も東もわからずに、ただマイムがやりたくてニューヨークの大学に飛び込んだ際、親身になって指導し、また生涯の師となるトニー・モンタナロ氏を紹介して下さったカイラー教授だ。私の博士号授与式にわざわざノースカロライナよりウィスコンシン州マディソンまで車でお祝いに駆けつけてくれた。かれこれ30年の付き合いになる。絶頂期も試練の時も電話やメールで励まし、祝い、そして相談にのってくれた。その恩師はご自身がクラウンであり、ジャグラーでもある。御歳77歳。しかし、相変わらず無邪気なおどけ方は子供たちを引き付ける。無論言葉の通じないわが息子と、なぜかコミュニケーションを自然にとっているのもお見事だ。
そのカイラー氏が終の棲家として選んだのが、ここノースカロライナ州はアパラチア山脈の中腹。彼の話では、最近までアメリカではとにかく現役を退くとフロリダへというのがお決まりのパターンだったのだが、今はフロリダの隠居人口が膨れ上がり、その上夏の湿度があまりに高いというので、ここアパラチア山脈沿いに移住するパターンが増えているとの事だった。標高が高いのでかなり気温も涼しくすごしやすい。確かに話かけた町の人々にフロリダからの移住者が多いのには驚いた。
アトランタでの南北戦争の共同墓地の話しになったときに、ここノースカロライナはその際にかなり州内でも北側につくか、南側につくかに揺れたらしくという話をきいた。同じ家族や親類の中で、それぞれが南北に分かれて争うなどという悲しい運命に引き裂かれた例が数多く見受けられたらしい。いや、もっと遡れば、より以前に、ここ一体はネイティブアメリカンのチェロキー族が有する土地であったらしく、白人達に追われ続けて西へ西へと移動する悲劇があった事も忘れてはならないだろう。
たまたま教授の家にあった1930年代のアメリカのDVDのアニメ選集をみんなで見た(本来は教授が息子に見せようと探しあてたものだが)。しかし、あまりにも当時、当然に使われていた黒人や、ネイティブアメリカンに対する卑劣な限りの差別用語、差別概念に全員が唖然としてしまったのだった(教授もたまたま倉庫から見つけてきたので、初めて見るらしかった) 本当に人の価値観、良識とは時代によってここまで変わるのかという意味で本当に興味深い経験だった。まさに漫画、アニメは時代の風潮、価値観をダイナミックに映し出す鏡だと思った。子供の頭には知らず知らずの内にそれを見たことによって大人の価値観が再生産されるのだ。しかもいやいやでは無く、演劇と同じく、楽しみながら無自覚の内に・・・確かフランスの構造主義的哲学者、ルイ・アルチュセール(Louis Althusser)がこれを「イデオロギーの再生産の為の社会装置」という呼び方をしていたと思うが、実に怖い事だ。今の日本のテレビはずばり今の子供の将来の価値観をつくりあげている。(写真はカイラー先生)

2008-08-01 11:26 | ひとりごと | コメント

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