汗かきの話

昨年の暮れ28日にタイツの話をしたが、最近東京は日中やたらに温かい。確かに風はたまに冷たいのが吹くが、さすがにタイツをズボンの下にはいていると暑くなる。今日も鈴本演芸場の出番をおえて身体があたたまったまま無意識にタイツをはいて外へでたら汗びっしょりになってしまったのだ。やはり早朝、深夜以外はウィスコンシンではないのでタイツは要らないようだ(苦笑)。
ところで自分は舞台ではかなり汗をかく方なのだが、この「汗かき」という事について面白い話がある。シェークスピアのハムレットの最後のほうの第五幕の第二場でハムレットの母、すなわち王妃がハムレットに対してこういうセリフがある “He is fat and scant of breath. Here, Hamlet, take my napkin, rub thy brows.” この場はハムレットとレアティーズの剣の決闘の休憩の時のセリフで、母親がわが子ハムレットの汗を拭こうとしているときに発した言葉だ。下線の部分の “He is fat and scant of breath.” をどう訳すかがかなり長い間学者の間で定説がなかったそうだ。つまりfat が果たしてデブなのかどうか。これをこのまま訳すと彼はデブで息切れしている・・・てな感じなのだが、ハムレットが果たして本当にデブだったのか。デブだとしても何故母親があえてデブだからと追い討ちをかけなくてはならないのか??どうもしっくりこない。ちなみに手元にある坪内逍遥先生の訳を見てみるとこうだ。「肥り肉(じし)ゆゑ息がきれう。これ、ハムレット、此汗拭で汗を拭や・・・」つまり逍遥先生はこれを肥り肉、つまりそのままデブと解釈している。
実は1924年ごろ、アメリカ中西部(オハイオという説とミシガンという説がある)のとある大学の英文学の授業で『ハムレット』の講読の際、ある教授がこの台詞の意味に関してまだ定説がないことを告げると、女子学生の一人が「それは、(汗っかき)という意味ではないだろうか」と質問したそうなのだ。ちなみに辞書の中でこのfatという単語にはそんな意味は一切ない。そこで教授がその根拠を尋ねると、彼女は自身の体験談を話したそうだ。つまり、以前、夏にウィスコンシン州の田舎を旅行していた時、非常な暑さの為に通りかかった農家で水をもらおうとすると、そこのオバサンが汗だくの彼女を見て、‘How fat you are!’と言ったらしい。「デブ」といわれたのか!と面くらいながらも、いろいろ話しをしていると、どうやら「汗をかいている=sweaty」という意味で使っているらしい。ちなみにこオバサンの先祖はイギリスのWarwickshireといういなかで、オバサンの家では代々そのような意味合いとしてこのfatなる言葉を使っているらしいのだ。こんなキッカケでイギリスの古い方言がアメリカの中西部、ウィスコンシンの田舎で脈々と受け継がれてきたおかげでその意味が解明されたという偶然の発見だったという。この発見がなければ、ハムレットはデブだといい続けられていたかもしれない!!ハムレットは私のように汗かきだったのだ!!(だから何だといわれたら何も返す言葉がない・・・苦笑)
そういえば年末に、最近本屋さんなどで並ぶワンコインDVDなるものの中にロレンス・オリヴィエのハムレットを見つけて喜び勇んで購入してしまった。時代の流れとはなんだか嬉しいような、悲しいような奇妙な価値観の推移が多々あるものですね。ロレンス・オリヴィエが500円かよ~!!日本のガキの軽薄映画が1800円だぜ!!(苦笑) (写真はワンコインDVD「ハムレット」)

2008-01-04 12:00 | ひとりごと | コメント(1)

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