先日大学の芸術教育の授業にて『陽の当たる教室(原題Mr. Holland’s Opus)』を学生とともに久々に鑑賞した。あらためて涙ぼろぼろ!!苦笑 というのも世代的な背景を自分が自ら生きてきた事もあるのだろう。1980年ジョンレノンが射殺されたとき、自分はある緊急の用事での帰国のため、マンハッタンを汗びっしょりで走りつづけていた。そして82年レーガン政権が教育の予算削減を実行したことにより、ニューヨーク州立大学を卒業後、すでに進学がきまっていたワシントン大学のcreative dramaticsという学科のMFAプログラム自体が閉鎖されるという信じられない事が起きたのだ。すでに入学が決まっており出国の準備に取り掛かっていた自分に学科閉鎖の知らせの手紙が届いたときは目の前が真っ暗になった。所詮芸術というのは映画でも語られているとおり、予算削減の際には一番弱い立場にある。
そしてやはり、今回もこの映画で一番強烈だったことは、音楽教師の息子が聾唖者であり、やがてこの親子はそれをあえて音楽により乗り越えて行くことであった。これを見ているとき自分の頭の中をよぎっていたアンドレ・ジイドの言葉があった。「芸術は束縛から生まれ、闘争によって生き、自由によって死するのである」という。芸術が芸術であるという証は様々な制約、拘束への途絶えることのないチャレンジによって生まれ育ってゆくものだということをまさに言い表している。
拙著、『おしゃべりなパントマイム』の第十五刷りのあとがきでも触れたのだが、現代の世の中においてマイムは多分に生きずらい存在となっている。マルセル・マルソーが生前発した言葉だが、彼は現代社会における人間の身体の動きの極端な減少を指摘して、「現代社会はマイム芸で模写しづらくなってきている」と嘆きにも似た発言をかつてしたそうだ。たしかに一昔前、それぞれの職業はその特徴的な動きを確実にもっており、子ども達も身体を動かしまわり、マイム芸にとってこれらは最適な模写対象でありました。しかし、現代社会を見渡すとき、子ども達は一様に小さなデジタル機器のモニターの中でかくれんぼをし、大人達にしてもPCのモニターの中の数字や画像のやりとりでその仕事が処理されつつあります。これらをマイムはどのように処理してドラマチックなグラフィックを舞台上に展開できるのだろうか。まさに今これがマイムへのチャレンジとして立ちはだかる『束縛』であり、『制約』である。 動きの極端にすくなくなった新しい時代における、新しい切り口を模索するチャレンジは今まさに大きくマイムたちの前に立ちはだかっているのではないだろうか。が、しかしこの大いなる壁を乗り越えたところに、乗り越えたものでしか味わうことのできない物が待っているのかも知れない。
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