先日の表現教育指導者セミナーの終盤の質疑応答の時間に於いて、逍遥のシェイクスピア訳に関連した質問があった。とにかく逍遥は翻訳の際、その言葉を使う人物の社会的地位、身分などに非常にこだわったのだそうだ。そのおかげでついつい訳された言葉が劇中では固くなりすぎる傾向があった。実はこの傾向が逍遥自ら創作した児童劇にも如実に表れているのも事実なのだが・・・・
こんな話をするうちに、それに関連してシェイクスピアの話題になったのですが、実はこのシェイクスピア、日本語では沙翁と呼ばれる事もある。逍遥はよくこのようにシェイクスピアを呼んでいた。そして英語では大文字で ‘the Bard’ (詩人)というと、シェークスピアのことを指します。’The Bard of Avon’「エイヴォンの詩人」(シェイクスピアの故郷ストラットフォード・アポン・エイヴォンという地名から)とも言われます。
今日鈴本演芸場の楽屋にて、ある噺家さんが話していらしたのだが、今話題の中島何某のお笑いチーム、オセロも実はシェイクスピアの白黒からきているとか。2人が色黒・色白と対照的だったのでそう呼ばれたのがきっかけとか・・・・もっとも日本で生まれたオセロゲームも、白と黒がせめぎ合うというアイディアから来ており、考案者の父親が元茨城大学名誉教授でシェイクスピア文学研究家だった為にその名がつけられたという話を聞いた事がある。因みにこのオセロというゲームはなんと1971年に考案された意外と最近のゲームだそうだ。
とにかく、この沙翁、相当英語が分かる人でも全て理解するのは難しい。入り組んだ言葉のアヤ、韻、比喩、これらを全て解釈しながら劇を追える人はそうはいないはずだ。だからついついその解説をしているとシェイクスピアが難しく、そして退屈に思えてしまう傾向がある。本当は大衆演劇のように、一般庶民に楽しまれていたはずの沙翁は、いつの時からか、ハイカルチャのカルチュラルアイコン(文化的象徴)として、高尚な文学の代名詞のように扱われ始める。
実はエリザベス朝演劇にはさきがける様々な地ならし的な時代があり、それが土台となって沙翁が登場するのだ。ルネッサンス初期におけるイギリスの大学での演劇ブーム。ヒューマニスト達がオックスフォードやケンブリッジで古代ギリシャやローマの演劇を利用しながらヒューマニズムを教え始めると、たちまちロンドンの大学は演劇ブーム到来となる。そして学生時代をそのブームの中で様々な実験を経験しながら劇作をおこなっていた学生達が卒業後プロの劇団の為に台本を書き始める。これらが一般的にユニバーシティー・ウィッツ(大学才人)と呼ばれる一連の劇作家達なのだが、彼らが実験的に手掛けた様々な手法がのちのシェークスピアによって集大成されるのだ。例えばトマス・キッドによるスペインの悲劇(1587)などを見ると、その原型は確実にローマのセネカの悲劇にならって様々なお定まりの要素を入れ込んでいる。つまり、復讐劇の中に、知られざる計画殺人、亡霊、偽りの狂気、劇中劇、などなどのちのハムレットに使われる技法が盛りだくさん!!シェークスピアはこれらの技法を再構築し、さらに効果的に作り上げたらしいのだ。タイミングも才能のうちだと言う人がいるが確かにシェイクスピアのロンドン時代はこういったアイディアがそこいらじゅうに散らばっていた時代だったのだろう。
実を言うと自分は実はこの沙翁にコンプレックスを持つ一人なのだ(苦笑)。博士課程の履修科目で最終学期まで全てオールAという成績できたのだが、最後の学期にこのシェイクスピアセミナーを履修し、唯一ABという成績をくらってしまった・・・・涙。(ってこれって自慢に聞こえるかな?爆) とにかくこの時代の英語は日本人には手ごわい。そしてユーモアのセンスも手ごわい。これを一般向けに砕けて、なおかつリズミカルに翻訳した小田島先生は天才だと思う。今寄席に出演の前後の電車内では沙翁三昧の日々を過ごしている。寄席で思いっきり馬鹿やったあとに読む沙翁はまた格段に味わい深いのだ(笑)。
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