応用マイムについて。その2

メールマガジン「超!エンタメ教育評論」に私の応用マイムの第二回目が掲載されましたので、ここにご紹介いたします。

応用マイムとは?(what is “applied mime”?) 第2回
         パントマイム役者 カンジヤマ・マイム
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 前回は私個人のマイムとの出会いを中心にお話ししましたので、そろそろこの五感を使った体験型の学びの方法についてさらに具体的に詳しく書こうと思います。ただし応用マイムといっても、いつも沈黙でやるわけではありません。もっと広義にとらえていただいて、五感を使うものであればおしゃべりでも歌でもありです。それでよいのです。そして面白ければ。
 さて、例えば、単に身体を動かすための楽しみとして、パントマイムは様々な視覚的なイリュージョンテクニックを提供してくれます。つまり一般的に言い換えれば、「見えないものがあたかも見えるようになると言う技」です。有名なところでは手の固定と独立を使用した「壁」のテクニック(あたかも目の前に壁があるように見える)、そして手を(想像上の)壁や机によりかけて、身体ごと持たれる「寄りかかり」のテクニック、
そして前回ご紹介した「綱引き」というテクニック、マイケル・ジャクソンが使用して有名になったムーンウォークなどの不思議な「歩き」の様々なテクニックなどなどです。これらは子どもたちの興味を非常にそそるものであることは皆さんも容易に想像できると思います。いきなり目の前に、なにも種も仕掛けもないのに見えないものが見えるようになる。現代の子どもたちは、それこそ画面の中のCGには慣れっこになっており、モ
ニターの中で何が起ころうと驚きはしなくなっています;人が消えようが、そして空を飛ぼうが・・・しかし、生身の身体一つでこういった不思議な事を目の前で見せられるとかえって驚きが倍増するようです。そして、単にこんな不思議さが動機づけとなって、子どもたちが修得したいと物まねをするのはもうすでに自主的に何かを学ぼうとしている第一歩ですね。そしてその目的の為に細かい動きや動作、身体の状態の観察を通じて
子どもたちは、例えば学校ではあまり学べない類の「空間的・視覚的知能 」そして「身体的・運動的知能」を修得しているわけです(これらは、ハワード・ガードナーの提唱する多重知能の一部でもあります。
(詳しくは、Howard Gardner著 Multiple Intelligence(邦題;多重知能理論)参照)

 もっとも昔から日本では芸事は「師匠の技(芸)を盗め」と言われておりますが、これは実はものすごく奥深い言葉で、師匠の技を盗めるような観察、分析、再現ができる素養を育てることが芸の第一歩なのだろうと思うのです。私も落語協会の正規の会員ですが、常にそういったお弟子さん達の努力を目撃しては感心しております。西洋のように言葉によって細部にわたって説明、指導されることも大事ですが、結局はそれでは次に
他の芸を身につけようとしても、やはり教わらねばならなくなる。ところが自分でそれらをまねて、忠実に再現しようとしたら、その過程で獲得された分析力、方法論は他の芸の習得にも役立つと思われます。だから物まね芸人の中でも人の創造した物まねをそのままやる芸人と、自分で独自の境地を切り開いた芸人とはまるで天と地の力量の違いがあるわけです。ですから、これを本格的にまねようとする子どもを日常のワークショップ
でみるとき、そこに偉大な学びのプロセスが垣間見られるのです。

 されど、この物まねだけでは応用マイムとは名づけがたい。次にこの物まねをどのように発展、応用させていくかと言う事になります。

 例えば、「食べる」というテクニックを例にとります。まずは好きな食べ物を手にしてみます。その手の中にあるものを想像し、その匂い、味、香り、舌触りなどを想像させます。そしてその食べ物を口に含む際、舌を使い、頬の内側から舌で頬を膨らませ、あたかもその食べ物が口の中にあるように見せます。そしてその舌を軽くかむふりをして味わいます。これだけでも結構楽しい「食べる」と言う行為のイリュージョンです。そし
て、一旦このテクニックで楽しめるようになったら、次は食べ物を次々に変えながら、その食べ物に対する表情を変えてゆくのです。例えば、大好きなものから、徐々にあまり好きではないものに変えてゆく、そしておしまいには大嫌い、大の苦手な食べ物をあえて想像して口に含んでみる。果たして子どもたちはその(想像した)味によって自分の表情を変化させてゆけるでしょうか?勿論、大いに声をだしながらやってみましょう。
うえ~~っと吐きそうになったり、ン~~最高!!と恍惚の表情となったり。楽しみながら笑いながらこれを繰り返すことによって、子どもたちの表情筋が柔軟になり、表情が豊かになってきます。何を食べているのか、その行為を当てっこするのも良いでしょう。ブドウ、バナナ、ピザ、ラーメンなど、それぞれに食べ方に特徴があるはずです。そして本当に嫌いなものを口にしたときに、「本当に嫌だ!」と言う事を顔だけではなく、
身体中で表現してみるともっと楽しく笑いが起こりますよ。こういう、日常生活で身近な行為に表現を付けながら、楽しみます。そして最終的にはこれに乗じて、様々な事を子どもに教えてあげると、単に話しだけをするよりも子どもたちの心に深くその内容が入ってゆきます。(これは私たちが何百と年間行っているワークショップで確信しておりますが)。例えば、「美味しいものを食べた時、作ってくれたお母さん、その他お父さ
ん、おばあちゃんなりに本当に感謝を込めて『おいしい!』という表情を作ることが一番の感謝のしるしで、作ってくれた人が最高に嬉しい事なんだよ!」などと教えてあげるのです。そして美味しいものを食べた時の幸せ感やら、まずい、嫌いなものを食べた時のいやだという気持ちを自由に、束縛なく表現することの楽しさ、開放感を味わえるようにします。日常生活の中の喜怒哀楽に表情がなくなっている現代の人々(大人を含む)
にとってこういった表情を使いながら、しかも笑いながらする表情金の練習は本当に精神的解放、ストレス解消などにも効果がありますよ。
 これだけでも十分に何時間もあそべるのですが、この食べ物をテーマに、それぞれが自由に物語をつくってもよし、また何か発想の飛躍を楽しむのも良いでしょう。例えば、桃太郎のおばあさんが、持ってきた桃を我慢できなくて食べてしまったらどうなるか、とか。普通なら食べると小さくなる食べ物が、食べるごとに大きくなったらどうなるかとか。マイムには発想の自由が無限大に許されていますので、子どもから大人までが、
自分の普段の日常の常識を逸脱して(しかも安全に)その発想の飛躍を楽しむことができるのです。もしも本当に腹が空きすぎて何でも食べてしまうとしたら、何を食べるか?なども楽しいですね。そこいら中の椅子やら机、あるいは車まで自由に美味しそうにたべてしまったら楽しいでしょうね。マイムでは可能です。そう、チャップリンが映画「黄金狂時代」で自分の靴をナイフとフォークを使ってお上品に食べていたように(笑)

【編集部より】

 カンジヤマ・マイム 公式サイト(音が出ます)
 http://www.kanjiyama.com/

 黄金狂時代(wikipediaより 靴を食べるシーンの画像あり)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/黄金狂時代

 連載執筆者の一覧はこちらにあります。ぜひご覧ください。
 http://owarai-kyousi.com/?p=682

2014-09-01 10:22 | つれづれなるままに | コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。