朝日新聞 1995年5月23日永六輔のメディア交友録より

「笑い」もとれるマイム

 

あらゆる筋肉を一瞬にして緊張させ、次の一瞬にはそれを弛緩(しかん)させてしまう。または、特定の筋肉だけを自分の意志通りに動かす。こうしてパントマイムはその肉体表現を作品にするのである。と簡単に書くことは出来るが、肉体表現だけで観客を笑わせたり、感動させたりするとなると、これは困難なことだ。自己満足の作品が多くなるパントマイムの世界で、寄席の高座でも好評なのが「カンジヤマ・マイム」のコンビである。つまり、色物として芸人思考のマイムをつくっているのだ。例えばマルセル・マルソーを芸人とは言わない。芸術家というが、芸人と芸術家は芸の差ではなく意識の差である。カンジヤマは、漫才、マジック、曲芸の世界に飛びこんで、芸人としての修行で、マイムを寄席の世界に定着させてきた。一方で基本的なマイムを寄席の芸人に教えるようにもなり、相互に刺激を与えているのがよくわかる。僕はこの二人が、寄席以前のステージで公演したパントマイム「奥の細道」に感動した。そこでは見事な芸術家だった。