毎日新聞1991年12月26日より

いま東京にある定打の寄席は、ほとんどが落語を中心にプログラムを組んでいる。その寄席では落語以外のすべての演芸を「色物」とよんでいる。落語ばかりがならんで高座が単調に流れるのをふせぎ、番組に色どりをそえるところから、そうよばれているのだろう。楽屋に張り出された出番表を見ると、落語家の黒に対して色物の芸人は赤い字で名が書かれていて、いかにも色どりである感じがよくわかる。
ほんらい聴かせる芸である落語に色どりをそえるとあって、色物のほうは見せる要素の多いものが喜ばれているようだ。大神楽、曲芸、奇術、紙切り、曲独楽、あやつり、百面相など、その役割にふさわしい色物で、一種の寄席情緒をかもし出してくれてきた。近頃では、そんな色物にも世代交替にともなうさまがわりの風潮がうかがわれるようだ。
むかしは、それこそ色どりをそえることに徹して、落語家の邪魔にならないことを自分たちの役目と心得るあまり、いささか消極的にすぎる高座に終始するひともいたものだが、最近の若い色物の芸人には、持時間内に持てるものすべてをさらけ出そうという激しさがある。
むしろクラブやホテルのショーの舞台のほうがふさわしいような芸が、客席の高座に進出してるのも最近の傾向で、十二月二十一日国立劇場演芸場の若手公演「第一五三回花形演芸会」に出演したパントマイムのコンビ、カンジヤママイムなどもそんなひとつだ。古くから寄席の芸として伝えられている、あやつりに代表される人形ぶりなどを取り入れてショーアップした演出が若い客層にうけてはいるが、その客席まで自分たちの芸に参加させてしまうやり方など、これまでの色物のイメージは、多少とも塗りかえられてきているようだ。